フィギュアスケートの採点方法って複雑ですよね?最近は演技中にTV画面左上に目安スコアが表示されますが、実際の採点と全然違うことに戸惑う人もいると思います。今回はフィギュアスケート初心者ファンの方でも分かりやすい採点方法(特に複雑な演技構成点)についてお話します。
フィギュアスケートの基本的な採点方法
フィギュアスケートの採点は大まかに言うと2項目あります。
一つは技術点(TES)。そしてもう一つが演技構成点(PCS)です。
基本的にはこの2項目の合計が得点となるのですが、転倒や規定違反等があった際にはそこに減点(ディダクション)が加わります。
この大前提を頭に入れて得点発表の様子を見てみましょう。
①が技術点、②が演技構成点、③が減点で、その合計が得点となっているのが分かります。
技術点+演技構成点+減点(マイナス点)=演技の総合得点
これがフィギュアスケートの採点の基本です。
では項目別に見ていきましょう。
技術点(TES)とは?
技術点とはその名の通り選手の技量につけられる点数です。
フィギュアスケートにはジャンプ、スピン、ステップ・シークエンスといった規定の要素(技)があります。そしてそれらの難易度によって一つ一つに得点が割り振られています。
例えばジャンプならトリプルアクセルが8.5点、4回転ルッツなら13.6点など。
スピンやステップは細かな技の組み合わせが選手によってことなるため、レベルという採点基準を採用しています。
例えばスピンであればスピン中にジャンプをする。入り方に工夫がある。など評価対象の項目が制定されており、その項目をこなした数によってスピンのレベルが上がるという仕組みです。ステップも同様に複雑なターンや左右に回転するなどといった項目が定められています。
試合で解説者の人が「これはレベル4を取れると思います」なんてよく言っておられますが、レベル4というのがスピンやステップにおける最高難度(最も高得点)の技なのです。
ちなみに4つ以上の項目を満たせばレベル4、3つならレベル3、2つならレベル2、1つならレベル1と決まっています。
そして今説明したジャンプの種類別の得点やスピン・ステップのレベルによる得点というのがいわゆる基礎点というものです。
※ジャンプは演技後半に組み込むと基礎点が1.1倍になります。
技術点は基礎点と出来栄え点(GOE)で決まる
技術点は技をこなせば入る基礎点と出来栄え点の合計です。
GOEって聞いたことがありませんか?
よく解説者の人が「このジャンプはGOEが+2~3ついてもいいくらいですね」なんて言いますが、このGOE=出来栄え点なのです。
出来栄え点(GOE)は”-3、-2、-1、0、+1、+2、+3”の7段階で評価されます(2017年現在)。技の完成度によって各ジャッジがGOEをつけ、その中の最高点と最低点を除いた平均点がGOEとして基礎点に加算されます。
ジャンプであれば高さ、幅、入りの工夫などがあればGOEは高くなり、着氷の乱れや踏切時の不正確なエッジなどがあればGOEを減らされます。ちなみに羽生選手は軸も高さも幅も理想的なジャンプを跳べるので、他の選手と同じジャンプをとんでもより多くの技術点が得られます。
ジャンプの回転不足は基礎点を減らす
フィギュアの試合では回転不足という言葉もよく耳にすると思います。
回転不足のジャンプとは、本来回らなければいけない回転に1/4回転(90°)から1/2回転(180°)足りないジャンプのことを言います。この場合基礎点は本来の7割しか加点されません。
さらに1/2回転以上足りない場合はダウングレードの判定をうけます。つまり3回転跳んだつもりでも2回転ジャンプの扱いに格下げされて2回転の基礎点しか入らないということです。
以上が技術点の大まかな説明です。
スピンやステップ・シークエンスにはもっと細かな規定があるので説明不十分かもしれませんが、これだけでも大体の採点は理解できるかと思います。
細かい技の分類などはJsport特集ページに解説してありますのでご参考ください。
※ちなみにテレビ中継で左上にカウントされるスコアは技術点の予想です。
演技構成点(PCS)とは?
演技構成点こそがフィギュアスケートの採点をややこしくしている存在であり、肝でもあります。
演技構成点とはテレビなどでもよく言われている”表現力”にあたる部分なのですが、
表現力と言ってもメディアや私たち素人に刷り込まれている表現力とは少し異なります。
よく解説者の方々は「この選手は表現力が高い。演技構成点を伸ばせる選手。」などというのを耳にしますが、ここで言う表現力って何なんでしょうか?
表現力という言葉自体も抽象的ではありますが、”表現力=表情の豊かさや手足の所作の美しさ、動きの大きさ”というイメージを持つ人が多いように思います。(私の知り合いのオジサンに至っては色気の有無で演技の良し悪しを判断していました泣)
たしかにそれらも演技構成点の重要な要素ではあります。ですがメディアとわれわれ素人が思う表現力を解説者の言う表現力と重ねるのは違うと思います。
なぜなら演技構成点は以下の5つの項目(ファイブコンポーネント)から成り立つからです。
- スケーティングスキル(SS)
- つなぎ(TR)
- パフォーマンス(PE)
- 振付/構成(CO)
- 曲の解釈(IN)
ジャッジはこれら5つの項目をそれぞれ10点満点の0.25点刻みで評価します。そして最高点と最低点を除く平均値が各項目の得点となります。
この5項目の平均点の合計点に規定の係数を掛けたものが演技構成点となるのです。
係数は男子SPが×1.0、男子FSが×2.0、女子SPが×0.8、女子FSが×1.6。
ずいぶん異なりますよね。これはそれぞれの種目の技術点と大体同じ値になるようにするためです。
では、5つの項目を一つ一つ確認しましょう。
以下はISUのオフィシャルチャートを参考にしています。
①スケーティングスキル(Skating Skills, 略記号:SS)
スケーティングスキルはスケーティングの全体のクリーンさと正確さによって定義されます。
エッジやステップ、ターン等の技を自在に操ることで氷上でのエッジコントロールや流れを明示すること。技術の明瞭性と力みのない加速、スピードの緩急があることが要件です。
具体的な評価ポイントは
- 深いエッジ、ステップとターンを使っている。
- バランス。リズミカルな膝の運動と正確な足の配置を行っている。
- 流れのある滑走。
- スピード、パワーの緩急の使い分け。
- さまざまな方向へのスケーティングを行っている。
- 片足でのスケーティングを行っている。
②つなぎ(Transitions, 略記号:TR)
要素のつなぎというのはジャンプやスピン等の要素と要素の間をつなぐ動きのことです。
つなぎは多様かつ目的のある 複雑なフットワーク、ポジション、動きを利用した多様かつ目的のあるものであり、全ての要素をつなぐものでなければなりません。
評価ポイントは
- 一つの要素から次の要素への連続性のある動き
- 多様性
- 難易度
- クオリティ
③パフォーマンス(Performance, 略記号: PE)
音楽と振付の意図を体、感情、知性を使って伝えているか。
評価ポイントは
- 身体、感情、知性
- 動作の正確性と身のこなし
- 動作とエネルギーのコントラストと多様性
- 個性があるか
④構成(Composition, 略記号: CO)
意図的に開発されたもの。かつ/または、全ての動作にオリジナルのアレンジを加えられたものかどうか。それらの動作は音楽のフレーズ、スペース、パターンそして構成の原理に従っているか。
評価ポイントは
- 目的(アイデア、コンセプト、ビジョン、雰囲気)
- パターン/リンクのカバー範囲
- 多次元な空間利用と動作のデザイン
- フレーズと形状(動作とプログラムの部分部分が音楽のフレーズとマッチしているか)
- 構成の独自性
⑤曲の解釈(Interpretation, 略記号: IN)
音楽のリズムや性質や内容を個性的、創造的かつ純粋に氷上の動作に置き換えているか。
評価ポイントは
- 音楽とタイミングを合わせた動作やステップ
- 音楽の性質と感情の表現。明確に識別できるときにはリズムの表現も。
- 音楽の詳細やニュアンスを映し出す技巧を使用しているか。
以上が5項目の評価基準です。(和訳がぎこちない点お許し下さい。)
演技構成点というのは、要はいかに音楽の世界観にふさわしい演技をしているか?そして世界観を表現するに足るスキルが実行されているかどうか?ということを評価しているわけです。
つまりスケーティングの技術もエリアを最大限活用することも、つなぎの工夫も、ダンスの上手さも、表情も全ては音楽を正確に表現するためのツールなので、演技構成点=表現力と言ってもいいのではと個人的には思います。
逆に表情が豊かでもスケーティングが苦手な選手や所作がキレイでも演技に流れがない選手、スピードはめちゃくちゃ出せるけど緩急がつけられない選手などは優れた部分があるとしても表現力が高い選手とは言えない(高い演技構成点を出せない)ということではないでしょうか?
演技構成点の問題点
演技構成点は上記のように明確な採点基準が定められているものの、その点数化に対する具体的な基準が充分でないため、結局はジャッジの主観に委ねられます。しかしそれには問題点もあるのです。
フィギュアスケートの特徴として、シニア一年目では演技構成点は伸びない、大きな表彰台に乗れば(実績がつけば)演技構成点が高くなるという現象があります。
もちろん、スキルアップするほど得点は伸びるし実績も作れるので、キャリアを積むほど本人比で演技構成点が伸びるのは当然でしょう。
しかし、世界トップクラスになると選手の特徴がジャッジに先入観を与えるのも事実です。
基本的にミスをすれば演技構成点も低くなってしまうのですが、表現力に定評ある選手なら多少ミスをしても他の選手に比べて演技構成点の下げ方が甘かったりしますし、勝って欲しい国の選手には点を高めにつける事もあれば、この人に勝たれては困るという選手には渋い採点をするなんていうことも当たり前のように行われます。
これでは一部の選手が有利になる場合もありますよね。
フィギュアスケートは八百長では?とささやかれる所以はこういったところにあるのです。
減点とは
技術点と演技構成点についてある程度理解していただけたと思うので、最後に減点についてさらっと。
減点は転倒やルール違反をおかしたさいにカウントされます。
転倒の減点ルール
転倒の減点は現行ルールは、
1回目、2回目の転倒は一回につき1点マイナス。3回目と4回目は2点マイナス、5回目以降は3点マイナス。
けっこう厳しいですね。
その他の減点
- 時間の過不足:5秒につきマイナス1点
- バックフリップ(バク宙)など禁止されている要素:マイナス1点
- 衣裳の落下:マイナス1点
- 衣裳違反(露出度高すぎなど):マイナス1点
- 演技の中断:10秒につきマイナス1点(やむを得ない場合は除く)
転んでいないのに減点されていたらどれかの項目に該当しています。
以上、簡単ですがフィギュアスケートの採点ルールをご紹介しました。
もうすぐ全日本選手権、来年にはついに平昌オリンピックが控えていますが、ルールを知ると何倍も深くフィギュアスケートを観戦することができますよ。
なお、シーズンごとにルール改定されるので(オリンピック後は特に大きい)ご注意ください。