フィギュアスケートジュニアグランプリシリーズ2016の横浜大会で日本女子選手が表彰台を独占したことが話題になっていますが、その影で記憶と歴史に残る演技が生まれました。滑ったのは男子シングルのインド人クリシュナ選手。スコアはなんと3.2。若干14歳の少年が世界の人々の心を動かした演技とは?
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JGP2016横浜大会 スコア3.02のクリシナ・サイ・ラフール・エルリのSP演技(Krishna Sai Rahul Eluri)
こちらはクリシナ・サイ・ラフール・エルリ(Krishna Sai Rahul Eluri)選手のショートプログラムの演技です。
ハラハラする演技ですね(笑)。でも会場の雰囲気からもわかるように人々を暖かくさせるような演技です。
最後の転倒後のテヘッという表情もかわいらしい。
過去最低点??なぜこんなに点数が低いの?
ご覧のとおりラフール選手のショートプログラムの得点は3.02。2回転アクセルを一回跳んだ時の基礎点よりも低い点数です。
採点方法は時代とともに変わっていくので簡単に比較できないものですが、大きな国際大会でこのようなスコアが出たことが過去にあったでしょうか。
ちなみに今回優勝した韓国のチャ・ジュンファン選手のSPスコアは79.34、ラフール選手の次に低いスコアの選手でも20.72です。
ラフール選手の演技は確かに未熟と言えますが、それにしても3.02って低すぎない?と思った方もいるんじゃないでしょうか?
だって跳んだり回ったりいろんな要素を取り入れているように見えますよね?
こちらがラフール選手のプロトコルです↓
赤く囲っている所がジャンプやスピン、ステップなどの要素です。彼は6つの要素を演技に組み込んでいます。
ですが実際に点数が付いている要素は5番目のステップシークエンスだけ(赤線部分)。その他の要素は全部0点です。その理由をざっくり言うと、ルール規定上0点だったり、技として認定されてなかったり等々で結果的に0点になってしまったということです。
ということで技術点(赤部分)が0.77、そして演技力や振付、スケーティングスキルなどといった演技構成点(青枠内)の合計が4.25そして転倒等で-2の減点。その結果が3.02というスコアだったわけです。
フィギュアスケート歴1年、恵まれない練習環境でジュニアグランプリシリーズ出場
ではクリシナ・サイ・ラフール・エルリ選手とはどんな選手なんでしょうか?
彼はインドのハイデラバードを拠点にする14歳の選手です。
ヤマ・スケーティング・アカデミー(Yama Skating Academy)というチームに所属し、2015年からアイススケートを始めました。
もともと彼はローラースケート選手で、2015年にはインドのテランガーナで行われたローラースケート大会で優勝。2016年にはインド国内のローラースケート大会、フィギュアスケート大会で複数メダルを獲得しています。
そして2016年の夏には、東南アジアやインド等の国内大会メダリストたちのための選抜合宿にも招待されています。
ラフール選手はローラースケートでの経験と、アイスリンクへの適合力の高さ、そして技術習得の早さがコーチに買われて、フィギュアスケートに転向したということです。
しかしインドではまだフィギュアスケートはあまり普及していないため十分な練習ができていないようです。
ラフール選手のホームタウンにはアイスリンクがないので普段は主にローラースケートで練習をして、1、2ヶ月に一度氷上で練習しているそうです。
ローラースケート経験者とはいえそんな過酷な練習環境で、しかもわずか1年でここまで仕上げてくるなんて驚きです。
3点の演技に世界の反応は?
世界でもラフール選手の演技には多くの反響がありました。
ジュニアグランプリシリーズという大きな大会であのようなレベルの選手が参加することに批判的な人もいましたが、多くの人は彼の演技を好意的に捉えているようです。
以下は動画を見た人逹のコメントを訳したものです。
「私は彼が演技を楽しんでいるのが嬉しい」
「ハッピーになる演技」
「観客は素晴らしい時間を過ごしたようだ。そしてもっと大事なのは彼自身がおもいっきり楽しんだということだ。」
「(スケート発展途上国選手への出場批判に対して)スケートの楽しさを世界中に広めることがISUの使命だ。
環境の整っていない南国選手を大会に派遣するということは、フィギュアスケートを少数のエリート国の限られた選手だけのものにとどまらせないための重要な意味がある。」
「ピュアなスケート」
「とってもキュート」
そして彼自身の演技への称賛とともに、横浜で彼の演技に手拍子を送り、暖かく見守った日本の観客への称賛の声も多く上がっていました。
ラフール選手も会場の声援が力になったことでしょう。
ラフール選手が出場した意義
フィギュア大国日本には世界トップレベルスケーターがゴロゴロいます。そのおかげで私たちは世界の頂点を争う場面で自国の選手を応援することができます。
今ではそれがすっかり当たり前になっていますが、ラフール選手の演技を見て、日本にもこのように歴史を切り開くパイオニアがいたからこそ今があるんだなと改めて感じることができました。
彼の活躍を見たインドの子どもたちがフィギュアスケートに興味を持てば練習環境も少しずつ整備されてくるんじゃないでしょうか?
そして彼の活躍を知った世界中のスケート後進国の子たちの中にも「夢を持っていいんだ」と前向きになれる子がきっと現れるはずです。
彼の3.02点の演技は大きな一歩だったに違いありません。
最後に動画を2本ご紹介します。
まずはクリシナ・サイ・ラフール・エルリ選手のフリースケーティング。
SP、FS合わせて13.09点でした。
そしてラフール選手と同じくインドの女子シングル・アナーニア・ムルティ・ティーバーラム選手のショートプログラムです。
彼女も初出場でスコアは5.36でした。
二人で力を合わせてインドのフギュアスケートの歴史を作っていってください!!